第21回 『 脳梗塞予防の原点 』令和元年7月20日(土)


脳梗塞は、人口10万人に対して年間100人程度が発症していると推定されています。死亡率は、年間10万人対50人前後で、少しずつ低下する傾向にあります。しかし、後遺症を残してしまう事を多く、脳梗塞の発症をいかに抑えるかが重要になっています。

脳梗塞の病型

  1. アテローム血栓性脳梗塞
  2. 心原性脳塞栓
  3. ラクナ梗塞
  4. その他
脳梗塞

脳梗塞は、その原因によって大きく3つに分類されます。動脈硬化を主な原因とするアテローム血栓性脳梗塞。心臓に原因がある心原性脳梗栓。脳内の小血管閉塞が原因のラクナ梗塞です。その他、脳静脈血栓、動脈解離、頸部の外傷、頚椎疾患、遺伝性疾患などが原因となる事があります。



アテローム血栓性脳梗塞

動脈硬化により、脳血管が狭窄あるいは閉塞する事で生じる脳梗塞。
発生機序には
  1. 脳血栓
  2. 動脈・動脈塞栓症
  3. 血行力学的虚血
がある。

アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化により生じた血管狭窄部に血栓が形成される事が原因の脳梗塞です。発生機序には、大きく分けて3タイプあり、閉塞した血管が血液を供給する領域に一致した部位に脳梗塞を生じる脳血栓。動脈にできた脳血栓が剥がれて下流の動脈を閉塞して生じる動脈・動脈塞栓症。脳内主幹動脈に高度狭窄や閉塞があり、脱水や血圧低下が加わる事で供給血液量が減少し生じる血行力学的虚血があります。



心原性脳塞栓

何らかの原因で心臓内に生じた血栓が剥がれて、脳血管を閉塞することで生じる。
原因疾患としては、心房細動などの不整脈・僧帽弁疾患・心筋梗塞などがある。

心原性脳塞栓は、何らかの原因で生じた心臓内血栓が血流に乗って脳内血管に流れ、動脈を閉塞する事で生じる脳梗塞です。原因疾患としては、心房細動などの不整脈、僧帽弁疾患、心筋梗塞などがあります。



ラクナ梗塞

脳内主幹動脈から枝分かれした小血管が閉塞することで生じる脳梗塞。
脳深部に2〜15mm程度の大きさの病変が形成される。

ラクナ梗塞は、脳内主幹動脈から枝分かれした小動脈が閉塞する事で生じる脳梗塞で、脳深部に2〜15mm程度の範囲の病変が形成されます。脳梗塞の範囲が狭いため、過去に一度も症状出現のない無症候性脳梗塞として見つかる事が多いのも、このタイプです。



急性期治療

  1. 血栓溶解療法
    発症4.5時間以内であれば、ヒト特異的組織プラスミノーゲン賦活体(rt-PA)静脈投与が実施される。
  2. 機械的血栓回収術
    経皮的に動脈内にカテーテルを挿入し、特殊なデバイスで血栓を回収する。
  3. 抗血小板療法
  4. その他
急性期治療

脳梗塞急性期治療は、ここ10年で大きく変わってきました。まず、脳梗塞発症後、4.5時間以内で、一定の条件を満たす症例では、ヒト特異的組織プラスミノーゲン賦活体(rt-PA)静注療法が実施されます。また、発症後8時間以内であれば、特殊なデバイスを使用した血栓回収術が実施される事があります。閉塞した動脈が再開通すれば、神経症状が劇的に改善します。一方、途絶した血流が急激に再開する事で、その末梢に出血を生じてしまう事もあります(出血性脳梗塞)。抗血小板剤の投与(アスピリンやシロスタゾールの経口投与・オザグレルナトリウムの点滴静注)は、脳梗塞発症48時間以内であれば、後遺症の低減に役立つとされています。その他、抗凝固剤の投与、抗脳浮腫剤の点滴静注、脳保護剤の投与が実施される事もあります。



慢性期治療


  1. 頚部頸動脈狭窄症に対する血行再建術
    a.頸動脈内膜剥離術(CEA)
    b.頚部頸動脈ステント留置術(CAS)
  2. 抗血小板療法
  3. 抗凝固療法
  4. その他
慢性期治療

脳梗塞慢性期には、再発予防のため、色々な治療があります。頸部内頚動脈狭窄は、アテローム血栓性脳梗塞の主要な原因のひとつです。一過性脳虚血発作や脳梗塞の原因となっている高度狭窄(70〜99%)では、血行再建術が実施される事があります。その手技として、外科的に血管内にできた肥厚内膜(アテローマ、プラーク)を摘出する頚動脈内膜剥離術(CEA)と血管内に留置したカテーテルを用いてステントを留置する頚動脈ステント留置術(CAS)があります。心原性脳梗塞を除く脳梗塞では、再発予防目的で、アスピリン・シロスタゾール・チクロピジンなどの抗血小板剤の内服が使用されます。心原性脳梗塞では、ワーファリンや新規経口抗凝固薬(NOAC)が有効です。その他、EPA製剤、脳循環代謝改善薬が使用される事もあります。



健常者でのMRIの意義

  1. 無症候性脳病変の検出
    ラクナ梗塞や中等度以上の大脳白質病変を有する人は、脳卒中(脳梗塞および脳出血)の発生率が3〜4倍になる。
  2. 頚部頸動脈および脳内主幹動脈の閉塞・狭窄性病変の検出
MRI

脳梗塞の既往がない健常者でも、高齢になると、無症候性病変が多く見られるようになります。MRI検査で、ラクナ梗塞や中等度以上の大脳白質病変を持つ人では、脳卒中(脳出血や脳梗塞)を発症する危険性が、そうでない人の3〜4倍になるとされています。これらの異常は、加齢に加えて高血圧や糖尿病が主要因の脳内の小血管病変が原因と考えられています。また、脳内主幹動脈や頸部頚動脈の閉塞や狭窄性病変を見つける事ができます。これら血管の動脈硬化性変化は、アテローム血栓性脳梗塞の原因となる場合があります。




脳梗塞予防の原点

  1. アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞
    ●高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・メタボリック症候群では、動脈硬化が進行しやすい
    ●高血圧・糖尿病は、脳小血管病変の主要因と考えられている
    ●脱水の予防
    ●適量の飲酒
  2. 心原性脳塞栓
    ●原因となる心疾患の治療・血栓形成予防
  3. 頭部MRI検査で見つかった異常への対応
    ●抗血小板剤の投与など

脳梗塞の予防について原因別に整理すると、アテローム血栓性脳梗塞では、動脈硬化の予防が最も大切です。動脈硬化を促進する危険因子である高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・メタボリック症候群などの治療が第一になります。ラクナ梗塞でも、小血管病変の原因と考えられている高血圧・糖尿病の治療が基本になります。これらに加えて脱水があると、血液が濃くなり血栓を形成しやすくなるので、特に高齢者では適切な水分補給が重要です。さらに多量飲酒(300g/週以上)の習慣があると、脱水や血小板凝集促進(血液が固まりやすくなる)が起こり易く、脳梗塞を発症しやすいと言われています。心原性脳塞栓症では、原因となる心臓疾患を早期に見つけ、治療することが大切です。その他、MRI検査で見つかった異常に対して、抗血小板剤の投与が脳梗塞予防に役立つ場合があります。









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